第16回CAPS研究会 5/25 松本昇先生(京都大学・学振PD)・報告

講演者: 松本昇先生(京都大学・学振PD)
日 時: 2017年5月25日(木) 15:10~16:40(延長する場合があります)
場 所: 関西学院大学上ケ原キャンパス 文学部本館1号教室(文学部チャペル)

タイトル:うつ病/うつ傾向における記憶の諸問題 ―そのメカニズムと介入技法―

要旨:
うつ病患者や抑うつ傾向者の記憶にはさまざまなバイアスや特異的な側面がみられることが知られています。また,そのような記憶の特異性がうつ症状を維持・悪化させることも指摘されており,記憶の諸問題への介入は抑うつ治療の鍵であるといえます。本発表では,うつ病患者や抑うつ傾向者にみられるエピソード記憶やワーキングメモリの低下について概説したのち,その応用となる,自伝的記憶に関する研究成果を報告します。具体的には,(a)ポジティブ記憶と気分改善効果の減少,(b)ネガティブ記憶と侵入記憶の増加,(c)自伝的記憶の概括化,の3つのトピックを取り上げ,そのメカニズムに関する私自身の研究を紹介します。最後に,自伝的記憶の諸問題に対する介入技法を紹介し,臨床現場における応用と今後の展望について議論します。

報告:
 本発表では,うつ病における認知機能の特徴について,自伝的記憶を中心に紹介した後,その応用について論じた。うつ病においては,ワーキングメモリといった実行機能系が関与する認知能力の低下が見られるだけでなく,エピソード記憶成績の低下も見られる。このような機能的低下の説明として,認知課題に対し認知資源が十分に投入されないという資源配分モデルや自発性の低下が生じることを背景とする自発性欠損などが挙げられる。これらのモデルは,Default mode networkなどのResting stateに関する研究からも,一定の支持が得られている。
 また,このような非感情的な情報の処理だけでなく,うつ病では特にネガティブ情報に対する認知バイアスも大きな特徴である。現在の感情状態と同じ感情情報を優先的に処理しやすいという気分一致効果は,うつ病においても顕著であり,うつ病ではネガティブ情報を優先的に覚えやすくかつ思い出しやすい(検索しやすい)とされる。うつ病では,ポジティブ記憶の想起による気分改善が困難であり,その背景にはFear of positive emotionと呼ばれるポジティブ感情への恐れやアンヘドニアが関連すると指摘されている。
 また,ネガティブな自伝的記憶の意図に反した侵入もうつ病ではしばしば報告されている。このような侵入記憶には,直接検索と呼ばれる自伝的記憶の階層構造を超えた記憶検索のメカニズムが関与している。また,侵入記憶の減少にはネガティブ記憶の記銘後に視空間ワーキングメモリを使用する課題(例.テトリス)を行うことが有効であるという報告がされている。
 さらに,うつ病では,自伝的記憶の概括化が生じるという特徴がある。CaRFAXモデルによれば,自伝的記憶の概括化は,将来のうつ病の悪化の程度を予測するなど,うつ病の中心的な特徴だとされている。したがって,自伝的記憶の概括化を改善することがうつ病の治療に寄与することが予測され,実際にMESTと呼ばれる具体的に自伝的記憶を思い出すというトレーニングが一定の効果を示している。現在は,記憶検索の柔軟性の向上という新たな手法の有効性が検討されている。
 このように,本発表では,ご自身の研究内容もご紹介いただきながら,記憶を中心にうつ病の認知的特徴とその応用についてご発表いただいた。基礎と臨床の両面について,フロアと活発な議論が行われ,盛会にて終了した。
(文責:小林正法)

参加者15名