第1回CAPS統計ワークショップ 8/8 井上雅勝先生(武庫川女子大学)・報告

企画者: 小林正法(関西学院大学 応用心理科学研究センター 博士研究員)
話題提供者: 井上雅勝先生(武庫川女子大学 准教授)
日 時: 2017年8月8日(火) 14:00~17:00
場 所: 関西学院大学上ケ原キャンパス F号館F303

タイトル:線形混合効果モデルによるデータ分析

企画概要:

近年,分散分析や重回帰分析などの分析が持ついくつかの限界を解決する分析方法として,線形混合効果モデル(Liner Mixed Effect Model)が注目されています。線形混合効果モデルは,線形混合効果分析,マルチレベル分析,階層線形モデルとも呼ばれる手法です。線形混合効果モデルは,言語心理学をはじめとした実験心理学においてもその利用が広がってきています。第1回CAPS統計ワークショップでは,この線形混合効果モデルを取り上げます。線形混合効果モデルを用いることで,刺激や参加者といった様々な要因の影響を考慮した上で,研究で扱っている要因の効果を検討することが可能となります。本ワークショップでは,主に線形混合効果モデルの初学者を対象とし,分散分析や重回帰分析といった従来の分析方法を振り返りながら,その発展として線形混合効果モデルの説明を行っていただきます。線形混合効果モデルを知り利用する良い機会となることを期待しています。

主に基礎的知識の獲得を目的とし,井上雅勝先生(武庫川女子大学)に線形混合効果モデルをご紹介いただく予定です。ご紹介の中にRを用いた実演が含まれる予定です。

報告:

本WSは,線形混合効果モデルの紹介を目的に行われた。線形混合効果モデルは,一般線形モデル(回帰分析や分散分析)を内包するモデルである。実験心理学において線形混合効果モデルを利用する際には,線形混合効果モデルを分散分析から直接理解しようとするよりは、回帰分析の延長として捉える方が理解の助けとなる。そこで,まず単回帰分析・重回帰分析の概要が説明され、そのうえで、重回帰分析においても分散分析と同様の交互作用を検討できることが解説された。

また、線形混合効果モデルとしての利点の多くは回帰分析と共通しており,例えば、独立変数にはカテゴリー変数のみならず連続量変数も扱えること,参加者や刺激の特性にもとづく共変量を複数設定して誤差をより小さくできることなどが示された。次に、線形混合効果モデルにおける固定因子とランダム因子の概要が解説された。固定因子は、分散分析における要因に相当し,一方のランダム因子は、固定因子の影響に基づく従属変数のランダム切片(従属変数の値レベル)やランダムスロープ(効果の現れ方、ないし効果の傾き)が参加者や刺激によって変動することを推定する誤差変動の一部ととらえられる。線形混合効果モデルの特徴の1つは,このランダム切片・ランダムスロープの組み合わせによってつくられる複数のモデルを比較し、その中から最もあてはまりのよいモデルを選択できる点、さらに、選択されたモデルの結果に基づき、交互作用を含む固定因子の影響を検定できる点があげられる。

最後に、読み時間を測定した言語心理実験のデータに線形混合効果モデルを適用した事例に基づき、Rのlme4、lmerTestパッケージのglmer、 lmer関数による分析手順の具体例と、ランダム因子構造が異なる複数のモデルから最適モデルを選択する方法が紹介された。

本WSはフロアとの活発な質疑が行われ,盛会にて終了した。

(文責・小林正法)

参加者:19名