第24回CAPS研究会 2/12 和田真先生(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)・報告

日時:2月12日(月) 10:00〜11:30(延長する場合があります)
会場:ハミル館ホール
講演者:和田真先生(国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 発達障害研究室)
タイトル:感覚間情報処理からみた自閉スペクトラム症の特徴

要旨:
自閉スペクトラム症の方でみられる様々な障害特性の背景には、特有の感覚情報処理特性の関与が示唆される。我々は、障害当事者がもつ「生きにくさ」の「見える化」を目指して、ヒトとマウスを対象に、ミクロからマクロを俯瞰ながら、視覚・触覚の相互作用や身体イメージの特徴を明らかにしてきた。ヒトを対象とした研究からは、時間順序判断や皮膚ラビット錯覚、そしてラバーハンド錯覚といった実験により、自閉傾向の高い実験参加者では、視覚と触覚に比べて、触覚と自己受容感覚(固有感覚)が結びつきやすいことが明らかになった。一方、マウスでもラバーハンド錯覚のような自己身体表象の錯覚が生じることを発見し、自閉症のモデルマウス(CAPS2 KO)では、この現象が生じにくいことが判明した。ヒトを対象とした研究からは、これらの現象が運動の苦手と関連している可能性が示唆された一方で、マウスを用いた研究からは、多感覚領域である後部頭頂皮質が関与する可能性が示唆された。本講演では、これらの研究を紹介するとともに、知覚特性にもとづいた障害の「見える化」の可能性について論じていきたい。

◯参加に際し、文学部・総合心理科学、文学研究科・総合心理科学専攻の方の事前連絡は必要ありません。
それ以外の方は、祝日ということもありますので、お手数ですが植田(mizu.ueda[at]kwansei.ac.jp)までご一報いただきますようお願いいたします。

報告:本講演では、ASD(自閉スペクトラム症)者の感覚情報処理の特徴が様々な障害特性を生み出しているという仮説を基に、身体イメージに結びつきの深い触覚と固有覚(自己受容感覚)の統合を中心にお話しいただいた。
定型発達者では、腕を交差した状態で左右の手に与えられた触覚刺激の順序判断を行わせると、時間順序判断の逆転が生じることが知られている。この現象について、定型発達児とASD児を対象に実験を行った結果、半数の定型発達児において大人と同様に逆転が生じたのに対し、ASD児には逆転が生じにくいことが明らかになった。このことから、ASD者は触知覚において空間的な位置より身体上の位置を重視する傾向にあることが示唆された。
またこれまでに、腕上または左右の指で保持したスティック上の二点に複数回ずつ触覚刺激を加えると中間地点に刺激が知覚される現象(ラビット錯覚)が知られている。これは後発刺激により先発刺激の知覚が影響するポストディクションの一つであるとされている。この現象について定型発達者とASD 者で比較を行った結果、両者で同程度の錯覚が生じていたが、ASD児についてはスティック条件の約半数でスティック上に知覚が生じることが少なく、指の周辺に回答が偏る傾向があった。この結果から、ポストディクションはASD者でも生じるが、ASD者の半数で、触知覚は身体内にとどまりやすいことがわかった。
さらに、視界から隠れた本物の手と目の前にあるラバーハンドを同期して筆で刺激することで、ラバーハンドが自分の手のように知覚されるようになるという錯覚(ラバーハンド錯覚)に関して、ラバーハンドをあたかも自分の手のように感じる所有感は、自閉傾向や社会的スキル・コミュニケーションの困難と負の相関を示した。また、この現象はマウスの尾とラバーテイルによっても観察されたが、自閉症モデルマウスであるCAPS2 KOマウスでは観察されなかったことからも、ASDに関連した遺伝子変化によってこの現象が起きにくくなることが明らかになった。さらに、c-Fos を用いた免疫染色から、後部頭頂皮質の関与が示唆された。
これらの結果から、ASD者においては触覚と固有覚(自己受容感覚)が統合されやすい可能性が示された。先生は今後の展望として、この特徴と日常生活における特性との関連や、神経メカニズムについて明らかにする必要性を述べられるとともに、その他にも自閉傾向と視覚・触覚の結びつきの関連など、幅広いご研究をご紹介くださった。フロアとの活発な議論も行われ,盛会にて終了した。

(文責:植田瑞穂)
参加者13名