2017年度戦略プロジェクト報告会 3/6・報告

2017年度戦略プロジェクト報告会

日程:2018年3月6日(火)13:00〜15:00
場所:関西学院大学上ケ原キャンパス F号館102号教室

(1) はじめに

(2) 研究成果報告

道野栞(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「ネガティブな結果を予測させる視覚刺激に対する反応の切り替え」

小國龍治(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「エピソードシミュレーションが効力感に及ぼす影響—向社会性の観点から—」

伏田幸平(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「感情状態が日本語文処理に与える影響—事象関連脳電位を指標とした検討—」

植田瑞穂(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「他者の達成に対する2歳児の共感的反応と関連する要因」

真田原行(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「感情喚起下における生理状態の時系列変化―前頭脳波αパワー左右差と心拍数を指標として―」

小林正法(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「ノスタルジア状態喚起による顔の信頼性の向上」

高橋良幸(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「ラットにおけるランダムウォークドットパターン誘発性探索行動の特徴」

参加に際して事前連絡は不要です。多くの方のご参加をお待ちしています。

 

報告:
(1) はじめに
最初に片山順一センター長からCAPSおよび戦略プロジェクトに関するこれまでの経緯、現在の共同研究・受託研究等の報告が行われた。 その後、大竹恵子センター副長から今年度行われた研究会や講演会に関する報告、今後の戦略プロジェクトの方針が説明が行われた。

 

(2) 研究成果報告
戦略RA,PDによる成果報告が行われた。概要を以下に記述する。

道野栞(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「ネガティブな結果を予測させる視覚刺激に対する反応の切り替え」

自分にとって良い結果を予期させる対象には接近し、悪い結果を予期させるネガティブな対象からは回避することが適切な反応であると考えられる。本研究では、同時に呈示された2つの視覚刺激から予測される結果が競合する場合の行動について検討した。課題では、異なる点数と結びついた無意味図形を対呈示し、いずれか一方を選択させた。被験者には、より多くの点数を獲得することを求めた。その結果、被験者の所有する点数が減算される無意味図形と加算される無意味図形を同時呈示した場合には、減算される無意味図形が素早く回避されることが示唆された。その一方で、点数が変わらない無意味図形と減算される無意味図形を同時呈示した場合には、減算される無意味図形を不適切に選択する傾向が見られた。このことは、ネガティブな対象に対する反応は、同時に呈示される他の対象の持つ特性によって変わることを示唆している。今後、ネガティブな対象に対する反応切り替えのプロセスについて検討するため、眼球運動を指標として研究を進めていく。

 

小國龍治(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「エピソードシミュレーションが効力感に及ぼす影響—向社会性の観点から—」

将来起こりうる状況について思考を働かせ,その状況を具体的に想像することは (エピソードシミュレーション:episodic simulation),特定の行動に対する動機づけを促進する。そして,近年の研究から,援助行動の想像は援助動機を高めることが示されている。本研究は,援助行動の想像及び想起が援助効力感と援助動機に及ぼす影響を検討した。さらに,援助効力感が援助行動の想像の鮮明さと援助動機の関連を媒介しているかについて検討した。参加者の課題は,記述文 (他者が援助を必要としている状況) に対して,援助行動の想像や想起,見出しの考案をすることであった。全試行終了後,各記述文に対する援助効力感と援助動機を尋ねた。想像条件と想起条件については,想像もしくは想起内容の鮮明度と詳細さについても回答を求めた。本研究結果から,援助行動の想像は見出しの考案に比べて,援助効力感を高めることが明らかになった。さらに,援助効力感は援助行動の想像の鮮明さと援助動機の関連を媒介していることが示唆された。今後は,想像時の感情状態によって,想像の鮮明さや援助効力感に及ぼす影響に違いが見られるかを検討していく。

 

伏田幸平(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「感情状態が日本語文処理に与える影響—事象関連脳電位を指標とした検討—」

感情(affect)は認知処理に影響を及ぼすことが報告されており、文処理もその例外ではない。具体的には、意味逸脱文に対するN400(Chwilla et al., 2011)、統語逸脱文に対するP600(Verhees et al., 2015)は、快感情時の方が不快感情時にくらべ頭皮上の広範囲で確認され、それらの振幅も大きい。しかしながら、これらの研究では中性感情時の文処理との比較を行っていないため、快感情が認知的処理を促進したのか、不快感情がそれを抑制したのか、またはその両者であるのかは不明確のままである。そこで本研究では快・不快感情に中性感情を加え、これらが文処理に及ぼす影響を検討することとした。参加者の感情状態を操作するために快・不快・中性感情を誘発する動画のいずれかを視聴させ、その前後で脳波を計測しながら文章判断課題を実施させた。その結果、快・中性動画を視聴した参加者は、動画視聴前後の文章判断課題で意味逸脱文と正文に対するN400の有意な差が認められたのに対し、不快動画を視聴した参加者では、動画視聴前でしか意味逸脱文と正文に対するN400の有意な差は認められなかった。このことから、快感情が文処理を促進しているわけではなく、不快感情が文処理を抑制しており、感情と認知処理は不可分であると結論づけられた。

 

植田瑞穂(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「他者の達成に対する2歳児の共感的反応と関連する要因」

これまでの研究で、子どもは1歳から2歳にかけて、他者の達成状況に対してポジティブな反応を示すようになることが明らかになった。本研究では、この発達に子ども自身の達成時におけるポジティブな経験が影響すると仮定し、他者の達成状況への共感に対する2歳児の被称賛経験の効果を検討した。子ども自身の達成課題において実験者から称賛を与えられる群と与えられない群を設定し、事前と事後の母親の達成時における子どものポジティブ感情を観察した。その結果、称賛なし群のポジティブ感情得点が減少するのに対し、称賛あり群の得点は維持されることが示された。この結果から、子ども自身の達成時において周囲からの称賛による外発的なポジティブ感情を経験することは、他者の達成時における共感的な反応に効果があることが明らかになった。今後は、子どもの達成自体による内発的なポジティブ感情の効果を実験的に検討することや、経験の個人差からも発達的なメカニズムを捉えることが課題である。

 

真田原行(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「感情喚起下における生理状態の時系列変化―前頭脳波αパワー左右差と心拍数を指標として―」

時間に伴って感情状態は変化する。今年度は、その感情状態の時系列変化を把握できる指標の確立を目指し、感情喚起下における生理状態の時間変動を分析した。感情は脳と身体(すなわち自律神経系)の相互作用によって生起すると広く認められていることから、脳活動を反映する前頭脳波αパワー左右差と自律神経系活動を反映する心拍数を指標として用いた。実験では、ポジティブ・ネガティブ感情をそれぞれ喚起する動画、またそれらどちらの感情も喚起しない動画(ニュートラル動画)を被験者に視聴させ、その間の生理反応を計測した。時系列分析の結果、まず、あるネガティブ動画視聴時に、その動画の中頃あたりにおいてネガティブ感情状態を示す前頭αパワー左右差パターンが生じていたことが分かった。このパターンは、従来一般的であった方法(高速フーリエ変換)を適用した場合には見えなかったものであり、時系列分析の有用性を示唆する。また、前頭αパワー左右差と心拍数の相互相関分析を行ったところ、あるポジティブ動画視聴時において緩やかな連動が見られた。実験場面を撮影した映像から、被験者が表情を表出していたか否かの分析を事後的に行ったところ、その動画において最も多くの被験者が表情表出をしていたことが分かった。これらの結果から、前頭αパワー左右差の起源となる脳部位の活動と自律神経系活動は連動するが、その連動が生じるには表情表出が重要な鍵となっている可能性が考えられる。

 

小林正法(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「ノスタルジア状態喚起による顔の信頼性の向上」

過去に対する哀愁・郷愁(a sentimantal longing for the past)として定義されるノスタルジアについて,その社会的機能を調べた。実験的にノスタルジアを感じる状態(ノスタルジア状態)を喚起することは,感情・認知・行動に様々な変化を導く(Sedikides & Wildschut, 2016)が,本研究では,ノスタルジア状態喚起による外集団態度の肯定的な変化(e.g., Turner et al., 2012)に着目した。これまでの研究では,対象となる外集団(例. 精神疾患患者)と交流した懐かしい記憶を思い出すことで,対象集団の態度が肯定的に変化することが明らかになっている。しかしながら,ノスタルジアを感じる状態自体か,それとも交流した懐かしい記憶を想起した場合かのどちらによって,肯定的な外集団態度が導かれたかは不明であった。また,先行研究では全般的な外集団態度を測定しており,信頼性などの個別の指標での評価は行われていなかった。そこで,本研究では,(対象集団と関連しない)ノスタルジア状態の喚起が外集団に属する人の顔の信頼性を向上させるかを調べることで,ノスタルジア状態が顔の知覚的評価に与える影響を明らかにした。実験の結果,ノスタルジア状態を喚起しない統制条件よりも,ノスタルジア状態を喚起した条件の方が顔の信頼性を高く評価することがわかった。この結果は,ノスタルジア状態自体の喚起が外集団態度を肯定的に変化すること,そして,その影響が顔の知覚的評価においても生じることを示唆している。

 

高橋良幸(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「ラットにおけるランダムウォークドットパターン誘発性探索行動の特徴」

動物実験において、探索行動は心的機能を反映する行動指標として利用されてきた。しかしながら、動物がなぜ探索をするのか、その根本的な動機については十分な検討がなされていない。この点に関して、周囲の環境が実際に有している情報と、動物が有している環境情報との間に生じる情報誤差の量が探索行動の動機を決定している可能性について検討した。装置内に含まれる情報量が大きくなるに従い、実際の環境情報と生体が有する環境情報との誤差が相対的に大きくなることを想定し、装置内での動物の移動量を測定した。視覚刺激を用いて装置内部の環境情報量を操作したところ、視覚刺激が呈示された場合に移動量は増大した。さらに装置内情報量が大きくなるに従い移動量も増加することが部分的に示された。このことから、情報誤差によって探索行動が生じることが示され、誤差量に応じてその量は増加する可能性が示唆された。現在は、行動課題中の神経活動を記録することにより、情報誤差がどのように神経活動によって符号化されているのか、また、それらの神経活動と探索行動がどのような関係にあるのかを検討中である。

 

参加者14名
文責:リサーチアシスタント,博士研究員