第32回CAPS研究会 12/11 森 数馬 先生(CiNet)・報告

講演者: 森 数馬 先生 (CiNet・研究員)

日 時: 2018年12月11日(火) 16:50~18:20
場 所: 関西学院大学上ケ原キャンパス F号館306号教室

タイトル:感動の心理・生理・情報学的研究

要旨:
壮大な自然の光景を目の当たりにするとき、優れた芸術作品に触れるとき、白熱したスポーツの試合を見るとき、私たちは感動を覚えます。ここで感動と呼ばれる経験は、具体的にどのような状態を指し示しており、どのような要因と関連しているのでしょうか。こうした問いは古くから強い関心を集めてきたものの、その多くは未解明のままです。感動経験は、基本情動とは異なる機能を持つ、人に特有の情動状態であると推察され、情動を理解する上で重要であると考えられます。
本研究会では、音楽を聴取したときの感動に焦点を当て、感動がどのような心理要素から構成されるのか、どのような生理反応をもたらすのか、どのような音楽の特徴量と関連するのかについて報告を行います。具体的には、自律神経活動を計測した生理心理実験、fMRIによる脳活動計測を行った認知神経科学実験、音楽情報処理と自然言語処理を用いた機械学習による分類・予測についてお話します。これらのアプローチから得られた知見について、議論できればと思います。

◯参加に際し、文学部・総合心理科学、文学研究科・総合心理科学専攻の方の事前連絡は必要ありません。
それ以外の方は、教室変更時などのお知らせのため、真田(msanada[at]kwansei.ac.jp)まで、ご一報いただきますと幸いです(必須ではありません)。

報告:
本研究会では、森数馬先生から、感動という心理学的現象の背後にある生理的メカニズムについてご発表いただいた。感動体験を扱った研究ではこれまで、生理的感覚としての「鳥肌感」に注目することが多かった。こうした先行研究から、「感動とは興奮の極致である」、つまりは感動体験が生じている際には交感神経系が賦活すると考えられてきた。一方、森先生は、鳥肌感に加えて涙感という感覚にも注目しそれら感覚の区別を行うことで、感動体験の背後にある生理的メカニズムをさらに進んで解明された。

研究1では、まず感動の背後にある生理的変化を把握するために、感動体験時に鳥肌感が生じやすい人達(鳥肌感グループ)と、涙感を感じやすい人達(涙感グループ)をわけ、音楽を聴いている際に、鳥肌感グループには鳥肌感が生じたとき、涙感グループには涙感グループが生じた時にマウスをクリックするよう求めた。また、その間の自律神経系反応を計測した。結果、涙感グループで音楽を聴いている間に心拍数は上昇し、このことは先行研究と同じく感動体験時に交感神経系が賦活していることを示していた。しかし同じ涙感グループで、涙感を感じたという報告したタイミングで呼吸が低下している結果も得られ、このことは副交感神経の賦活が生じていたことを示していた。このことは先行研究の知見と反対の結果である。

この研究1では鳥肌感・涙感を区別しておらず、それらが同時に生じていた場合に生理的反応が打ち消しあっていた可能性を排除できなかった。そこで研究2では鳥肌感を感じたとき、涙感を感じた時をそれぞれ分けて音楽聴取時に報告させ、それらの感覚の背後にある生理状態の区別を検討した。その結果、鳥肌感は交感神経系を賦活、涙感は副交感神経系賦活を反映していることが示唆された。

研究3では、音楽の物理的特性を統制してもこうした生理的変化が生じるのかの追試を行った。結果、鳥肌感は物理的特性を反映しており、涙感はより主観的な感動体験を反映している可能性が示唆された。上記の結果をまとめると、感動体験をしている前後では物理的特性の影響も受けて交感神経系が賦活し全体的に興奮状態が生じるが、その中で一時的な安らぎ(副交感神経系賦活)が生じ、その際において、主観的な感動体験が生じていることが示唆された。

このように森先生は感動という主観的状態の背景メカニズムについて、複数の生理指標を適切に使い分けることによって明らかにされた。本発表の内容は、我々が進める感情研究に対しても大変示唆に富むものであった。また会場からは多くの質問があがり、活発な議論がなされた。

文責:真田原行

参加者:17名