2018年度戦略プロジェクト報告会 3/1・報告

2018年度戦略プロジェクト報告会

日程:2019年3月1日(金)13:00〜15:00
場所:関西学院大学上ケ原キャンパス G号館301号教室

(1) はじめに

(2) 研究成果報告

石井主税(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「集団状況における行為結果の情動的評価」

道野栞(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「価値の異なる視覚刺激対の同時提示時における眼球運動制御」

小國龍治(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「ポジティブ感情が他者関連レパートリーに及ぼす影響」

高橋良幸(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「視覚刺激誘発性探索行動における視覚刺激の運動の効果」

真田原行(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「協和音・不協和音による注意捕捉の違い──事象関連脳電位を指標として──」

小林正法(山形大学人文社会科学部 人間文化コース 認知情報科学プログラム 准教授)
「ポジティブ・ネガティブな予期感情が援助行動意図を高める」

参加に際して事前連絡は不要です。多くの方のご参加をお待ちしています。

報告:
(1) はじめに
最初に片山順一センター長から挨拶があり、大竹恵子センター副長からこれまでの経緯、現在の共同研究・受託研究等の報告、今年度行われた研究会や講演会に関する報告、今後の戦略プロジェクトの方針が説明された。

 

(2) 研究成果報告

戦略RA,PDによる成果報告が行われた。概要を以下に記述する。

石井主税(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「集団状況における行為結果の情動的評価」

自己の行為結果に対する評価は社会的文脈によって柔軟に変化する。しかし,集団課題時の行為結果がどのように評価されるかは十分に明らかになっていない。本研究では自己の努力が課題遂行に影響する時間評価課題を3人集団で行っている時と1人で行っている時の脳波を計測した。いずれの条件でも誤答と正答に対するERPに違いが見られた。集団条件においてのみ,行為結果の情動的重要性を反映する差分フィードバック関連陰性電位の振幅(誤答に対するERPから正答に対するERPを引算した振幅)は自己の行為結果が多数派に属する時と比較して全員一致の時に大きかった。報告会では,自己の努力が課題遂行に関与する場合には集団における行為結果の一致性がその結果の情動的重要性を高める可能性を述べた。

道野栞(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「価値の異なる視覚刺激対の同時提示時における眼球運動制御」

報酬を予期させるポジティブな対象には接近し、嫌悪刺激を予期させるネガティブな対象からは回避することが適切な反応である。本研究では、価値の異なる視覚刺激対を呈示した場合に表出される反応および、その反応に至るまでの眼球運動制御を検討した。課題では、画面上に同時に提示した視覚刺激対からいずれか一方を選択させた。選択すると、被験者はその視覚刺激と結びついた点数を獲得した。被験者には、より多くの点数を獲得するように求めた。その結果、被験者の所有する点数が加算される視覚刺激と減算される視覚刺激を同時呈示した場合には、加算される視覚刺激が素早く適切に選択された。その一方で、点数が変動しない視覚刺激と減算される視覚刺激を同時に呈示した場合には、減算される視覚刺激を不適切に選択する反応が維持された。さらに点数が減算される視覚刺激に目を向ける傾向は、視覚刺激の価値の組み合わせに依存した。本研究から、異なる価値を持つ複数の視覚刺激から一つを選択する場合には、事態依存的に意思決定がなされることが示唆された。

小國龍治(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「ポジティブ感情が他者関連レパートリーに及ぼす影響」

感謝は向社会的行動を促進することが知られている。しかしながら,そのメカニズムについては明らかになっていなかった。そこで,本研究では感謝が向社会的行動を促進するメカニズムを思考-行動レパートリーの観点から検討した。参加者は感謝条件,平穏条件,中性条件のいずれかに割り当てられ,自伝的記憶の想起を行った。その結果,感謝条件は感謝感情と負債感情が喚起しており,平穏条件は平穏感情と感謝感情が喚起していた。感謝条件と平穏条件は中性条件に比べてレパートリーが多かった一方で,感謝条件と平穏条件のレパートリー数に違いは見られなかった。今後はレパートリーの内容分析を行うことや算出されたレパートリーと実際の行動の関連を検討することで,感謝が向社会的行動を促進するメカニズムをより精緻に検討していく。

高橋良幸(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「視覚刺激誘発性探索行動における視覚刺激の運動の効果」

探索行動は動物が環境の情報を収集するような行動である。探索行動を惹起するような環境要因とその動機については不明な点が多い。この点を明らかにするためにまずは探索行動を惹起するような環境要因を検討した。これまでに、報告者はディスプレイモニタで囲われた装置を用い、動きを伴うようなランダムウォークドットパターンをディスプレイ上に呈示することで、装置内でのラットの探索行動が誘発されることを報告した。また、ランダムウォークドットパターンに含まれるドットの総数が増加するとその効果が大きくなることが示唆された。この探索行動の増加において、ドットパターンがランダムウォークすることが重要なのかは不明であった。そこで、静止ドットパターンを呈示し、ドットパターンが動くことがラットの探索行動量増加に重要なのかを調べた。静止ドットパターンでも探索行動自体は増加したが、ドットの総数が増えてもその効果は不変であり、ランダムウォークドットパターンを呈示した場合とは異なる傾向が確認された。ドットの総数やランダムウォークするドットは情報量として考えことができるため、外的環境に含まれる情報量が増加すると、それに伴って探索行動が惹起されることが示唆された。現在は探索行動によってどのような情報を得ているのか、神経活動を記録することで検討している。

 

真田原行(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「協和音・不協和音による注意捕捉の違い──事象関連脳電位を指標として──」

我々の周りには、心地よいピアノのメロディーや緊張感をもたらす警報音など、感情的色彩をもつ音があふれている。本研究では、こうした感情的要素を持つ音の認知過程を知る第一歩として、協和音・不協和音に着目し、それを刺激として用いた脳波実験を行った。協和音・不協和音とは、複数の音の組み合わせのうち、組み合わせの相性がよいもの、悪いものを指し、ヒトは協和音にポジティブな印象を、不協和音にネガティブな印象を抱きやすいことが知られている。
今回用いた実験パラダイムは、協和音・不協和音を課題非関連刺激として用いた3刺激オッドボール課題であり、この課題中の課題非関連刺激はP3aと呼ばれる事象関連脳電位(ERP)成分を惹起することが知られている。そしてこの成分の振幅は、その課題非関連刺激がどの程度注意を捕捉したかの指標となる。本研究の具体的な目的は、協和音・不協和音でこの注意捕捉の程度が異なるのかどうか、またその程度は主課題の難度によって異なるのかどうか、さらにこれまでの音楽経験の有無はその程度に及ぼすのかを調べることとした。そのために主課題の難度を操作し(低難度・高難度)、また音楽経験者群・非経験者群を設けた。
結果、課題非関連刺激(和音)が惹起したP3aは、主課題が高難度のときのみにおいて、協和音に対する振幅が不協和音に対するそれよりも大きくなった。このことは、主課題の難度は協和音・不協和音による注意捕捉の程度に影響を及ぼし、かつ、難しいときのみに協和音の方が不協和音よりも注意を捕捉することを示唆する。またこの振幅差に対して音楽経験の有無の影響は見られなかったことから、協和音と不協和による注意捕捉の違いを支える認知過程は、ある程度生得的なプロセスである可能性が考えられる。

小林正法(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「ポジティブ・ネガティブな予期感情が援助行動意図を高める」

エピソード記憶は過去に体験した時間,空間が特定された記憶として知られる。メンタルタイムトラベルと呼ばれるように,エピソード記憶の想起には現在の自分が過去の記憶を再体験するような感覚が伴うという特徴がある。このような,現在から過去へのメンタルタイムトラベルだけでなく,現在から未来へのメンタルタイムトラベルとして,将来起こりうる出来事を詳細に想像するというエピソード的未来思考(episodic future thinking)が知られている。これまでの研究から,援助を行うという想像が援助行動の意図を高めることが明らかになっているが,援助を想像した際に予期される感情が援助行動意図に影響することも明らかになっている。本研究は,warm-glowと罪悪感という個別感情に着目し,それらが援助行動を想像した際に援助行動意図を高めるかどうかを検討した。3つの実験を行った結果,(援助行動を行った想像時の)予期warm-glowは援助行動意図と正に関連することが明らかになった。加えて,(援助行動を行わなかった想像時の)予期罪悪感も援助行動意図と正に関連していた。これらの結果から,予期感情が想像による行動の意思決定の手がかりとして役割を持つことが示唆された。

参加者26名

文責:リサーチアシスタント,博士研究員