第35回CAPS研究会 7/18 小澤 貴明先生(筑波大学)・報告

講演者:小澤 貴明先生(筑波大学)

日 時: 2019年7月18日(木) 16:50~18:20
場 所:    関西学院大学 F号館306教室

タイトル:光神経操作技術が明らかにする恐怖学習の脳内制御メカニズム

要旨:恐怖に代表される嫌悪的な情動体験は恐怖記憶の形成を引き起こす。この恐怖記憶は,起こり得る危険への対処など,我々の適応行動において重要である。一方で,強すぎる恐怖記憶はストレスと関連した精神疾患の原因にもなり,結果として行動的不適応を引き起こしてしまう。このことから,「嫌悪体験の強さに対応した適切な恐怖学習」は個体の健康と生存に必須の能力であると考えられるが,その神経基盤は不明であった。本講演では,①電気生理学による神経活動記録,②光遺伝学による神経活動操作,③学習理論を融合することで近年明らかになった,恐怖学習の制御メカニズムについて紹介する。

◯参加に際し、文学部・総合心理科学、文学研究科・総合心理科学専攻の方の事前連絡は必要ありません。
それ以外の方は、教室変更時などのお知らせのため、林(t.hayashi[at]kwansei.ac.jp)まで、ご一報いただきますと幸いです(必須ではありません)。

報告:

恐怖を学習することは、危険の予知など生体にとって適応的な行動に見える。しかし過剰に強い恐怖の学習はストレスと関連する不安障害の一因となる。げっ歯類では、特定の反応を引き起こさない音の刺激を呈示した直後に、電気ショックを与える訓練を行うと、音と電気ショックの連合を学習し、音のみを呈示した場合でも恐怖反応(この場合ではすくみ反応)を示すようになる。このことは「恐怖条件づけ」として心理学の分野では一般的に知られている現象である。この恐怖反応は繰り返し訓練を行う度に増加していくが、十分に訓練を行うと恐怖反応は一定以上増加しないことが知られている。これは「恐怖学習の漸近」として知られている。これらの現象を用いて行われた、予測される痛みに対して恐怖学習を過剰に生じさせないための神経メカニズムに関する研究について、小澤先生にご紹介いただいた。いくつかの実験から、ラットの「扁桃体中心核(central amygdala; CeA)→中脳水道周囲灰白質(periaqueductal grey substance; PAG)→吻側延髄腹内側部(rostroventromedial medulla; RVM)」の回路が恐怖学習の漸近に関連する回路として機能し、予測される痛みに対して過剰な恐怖を学習することを抑える働きを持つことを示されていた。

本研究会で紹介して頂いた研究では、神経科学の分野で利用されている光遺伝学的手法が用いられていた。小澤先生は心理学における学習理論と神経科学における神経操作技術を組み合わせ、新たな知見を生み出していた。このような、他領域の知見や技術を組み合わせることは心理学の理論を発展させていく重要な意義を持つものであると感じた。フロアとの活発な議論が交わされ,盛会にて終了した。

(文責:林朋広)

参加者: 14名