第37回CAPS研究会 10/10 一言 英文先生(福岡大学)・報告

講演者:一言 英文(福岡大学)

日 時: 2019年10月10日(木)16:50~18:20
場 所: 関西学院大学 F号館306教室

タイトル:幸福感の文化社会的文脈

要旨:文化は、そこで生活する人々が共有する、歴史的に伝えられた意味の体系である。特に、人が自己や他者、対人関係、幸せとはどういうものであるか、社会的な文脈で行動する過程で、この意味の体系が規定する考え方や感じ方の枠組みが用いられる。本発表では、自己の文化規定性を指摘した初期の作業仮説と現在の理論を紹介した上で、話題提供者が近年行った、文化的含意のある幸福感の比較文化研究を紹介する。具体的には、協調的幸福感(Hitokoto & Uchida, 2015; 2017)と文化的自己観との関係を検討したフィリピン・日本・ポーランド比較調査と、協調的幸福感の発達的変化を検討したコスタリカ・日本・オランダ比較調査を紹介する。また、近年社会心理学領域で台頭している、文化の社会的先行要因を考える観点(Oishi & Graham, 2010)に立ち、幸福感の含意が社会環境の違いで調整されることを、日米各国内及びタイ王国国内の地域差比較を用いて紹介する。これらに基づき、心理学における文化社会的文脈の重要性について議論したい。

◯参加に際し、文学部・総合心理科学、文学研究科・総合心理科学専攻の方の事前連絡は必要ありません。
それ以外の方は、教室変更時などのお知らせのため、道野(s.michino[at]kwansei.ac.jp)まで、ご一報いただきますと幸いです(必須ではありません)。

報告:
本研究会では、一言先生の比較文化に関するご研究について、特に幸福感に関する内容をお話いただいた。まず導入では、実際に一言先生がご体験された日本人と他国の留学生の物の扱いの違いをご紹介された後に、文化人類学や心理学における文化の考え方・理論的定義についてご説明された。文化は、目に見える部分(衣服、言語、建築物など)と見えない部分(宗教、教育、制度など)に大別され(the cultural iceberg)、社会集団を形成・維持するための行動の様式・価値観であり、行為を条件づける要素である等と述べられていた。
欧米人と日本人では、自己の肯定感や基本的帰属錯誤などが異なることが報告されている。一言先生は、幸せに対する意味づけの文化的特徴としては、欧米人は自己実現に関する幸福感が優勢である一方で、日本人は他人との関係の調和に関する協調的幸福感が優勢であるとお話された。さらに、アメリカの地域差に関するご研究では、各地域の特徴が個人の幸せをどの程度調整するのかをご検討されていた。そのご研究では、集団主義的な州に住む人は、協調的幸福感が個人の幸福感を強く説明する一方で、個人主義的な州に住む人は、自尊心が個人の幸福感を強く説明することが示された。さらに、加齢に伴う結婚の有無や生業(農業地域、都市)と幸福感との関連性をご検討された比較文化研究もご紹介くださった。多数の研究成果より、これらの違いは、個人主義文化と集団主義文化の違いに根差した、欧米と東アジアに限らない普遍的なものであることが示唆された。さらに、個人の行動や幸福感は、そのような文化的文脈によって調整されることが強調された。
一言先生にご発表いただいた研究成果は、人の感情は、社会環境や集団と密接に関係していることを示しており、我々が進めるプロジェクトにとって大変有意義なものであった。研究会後に開催された懇親会では、一言先生を囲んで活発な議論がなされた。
(文責:道野栞)

参加人数:18名