2019年度戦略プロジェクト報告会 3/2・報告

2019年度戦略プロジェクト報告会

日程:2020年3月2日(月)15時00分~17時00分
場所:関西学院大学上ヶ原キャンパス F号館203号教室

(1) はじめに

(2) 研究成果報告

道野栞(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「同時弁別課題時における選択行動の出力過程の検討」

林朋広(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「ラットの脳梁膨大後部皮質の機能の検討」

石井主税(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「集団状況における行為結果の評価」

Orthey Robin(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「Are you really sorry you made a mistake? The role of Medial Frontal Negativity and Feedback Related Negativity in Neuropsychological Malingering.」

高橋良幸(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「ラットは課題達成にとって冗長な情報を取得するのか?」

 

RAとPDによる研究成果報告の後に、学外研究者のお二人にお話しいただきます。

小林正法先生(山形大学人文社会科学部 准教授)
「Aweは時間を拡張するのか?」

島井哲志先生(関西福祉科学大学心理科学部心理科学科 教授)
「ポジティブ・ボディイメージ研究:現状と今後の展望」

◯参加に際し,文学部・総合心理科学,文学研究科・総合心理科学専攻の方の事前連絡は必要ありません。
それ以外の方は,お手数ですが、場所・時間変更などがあった場合の連絡のため道野栞(s.michino [at] kwansei.ac.jp)までご一報いただけると幸いです(必須ではありません)。多くの方のご参加をお待ちしています。

 

報告:
(1) はじめに
最初に大竹恵子センター副長からこれまでの経緯、現在の共同研究・受託研究等の報告、今年度行われた研究会や講演会に関する報告について話された。

(2) 研究成果報告

戦略RA,PDによる成果報告が行われた。概要を以下に記述する。

道野栞(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)

「同時弁別課題時における選択行動の出力過程の検討」

報酬を予期させるポジティブな対象には接近し、嫌悪刺激を予期させるネガティブな対象からは回避することが適切な行動である。しかし、それらの価値の異なる刺激が同時に出現した場合に、どのように行動制御が変容するのかはよくわかっていない。本実験では、画面上に同時に提示した視覚刺激対からいずれか一方を選択させた。選択すると、被験者はその視覚刺激と結びついた点数を獲得した。実験の結果より、報酬刺激に対して接近する際には、対となる刺激の価値に影響されにくいが、嫌悪刺激から回避する際には、対となる刺激の価値に依存して眼球運動の制御がなされ、選択行動の表出過程が変容することが示唆された。これらの成果は、情動を喚起させる刺激に対する結果予測やその学習過程に関して、基礎的知見を提供したと考えられる。

林朋広 (関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)

「ラットの脳梁膨大後部皮質の機能の検討」

過去の出来事(いつ・どこで・なにを)に関する記憶であるエピソード記憶の想起のしやすさは、経験した時点での情動状態が影響を与える。ヒトの脳梁膨大後部皮質(retrosplenial cortex : RSC)はエピソード記憶に関連する脳領域として知られている。しかし、RSCのエピソード記憶の各要素(いつ・どこで・なにを)の記憶処理における役割や、その統合過程への関連は十分に明らかになっていない。本研究では、物体認知課題を使用し、エピソード様記憶におけるラットのRSCの機能を検討した。RSCを損傷することで、時間順序の記憶・エピソード様記憶を阻害した。本研究から、ラットのRSCは時間順序の記憶および、エピソード様記憶の統合に関連する可能性が示唆された。

 

石井主税(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「集団状況における行為結果の評価」

ある行為の結果に対する報酬予測誤差の算出は脳内で素早く行われており,その後の高次な感情経験を導く重要な過程の一つと考えられる。社会的文脈下で生じる複雑な感情経験の理解を促進するため,ヒト複数名で課題を遂行している際の脳波を同時記録する研究を行った。報酬予測誤差を反映すると考えられている事象関連脳電位は集団成員全員が成功あるいは失敗した際に大きかった。この現象は成員間に協力関係がある時にのみ観察され,他者の反応をコンピューターに生成させた時や他者との協力関係を排した時には観察されなかった。これらの実験結果は,他者と協力関係がある状況では報酬予測誤差の算出が他者の行為結果にまで及び,自己の行為結果に対する報酬予測誤差と統合されて算出される可能性を示している。

 

Orthey Robin(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「Are you really sorry you made a mistake? The role of Medial Frontal Negativity and Feedback Related Negativity in Neuropsychological Malingering.」

The Forced Choice Test (FCT) can be used to detect intentional poor test performance in neuropsychological examination. However, previous studies have shown that a popular strategy to defy this test is intentional random responding. In this project I investigated the possibility to detect intentional randomization between correct and incorrect answers in the FCT using brain waves. Examinees were subjected to a simple working memory task in which they had to remember a number and subsequently identify it out of a selection of two numbers. After a choice was made examinees were provided with feedback, indicating whether they chose the correct or incorrect answer. All examinees performed this task once to the best of their ability and once pretending to suffer from cognitive impairment following a stroke. I suspected that examinees would elicit a larger Medial Frontal Negativity (MFN) when selecting incorrect answers on purpose, and that the Feedback Related Negativity (FRN) would be smaller when randomizing between correct and incorrect answers on purpose, because negative feedback actually was the intent of the examinee. The preliminary results suggest that both the MFN and FRN do not follow traditional results. A possible reason for this is that the design in this study provided a choice between two stimuli, rather than two possible button prompts to a single stimulus as in previous research. In addition, a considerable difference in the P300 wave was observed between conditions. Feedback elicited clear P300 waveforms when participants performed to the best of their ability, but this was not the case when they randomized between correct and incorrect answers on purpose. A likely explanation for this finding is that the feedback when making mistakes on purposes is not surprising or relevant. Closer examination of the data is needed before more elaborate conclusions can be drawn.

高橋良幸(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「ラットは課題達成にとって冗長な情報を取得するのか?」

好奇心はポジティブ情動を反映するような動機づけ状態と考えることができる。しかしながら、好奇心がどのような時に生じるのかなどについて未だ不明な点が多い。この点に関して、Gruber and Ranganath (2019) は、不確定な状況を確定的な状況へと変えるための行動は好奇心により動機づけられていることを指摘している。本報告会では、ラットを用いた実験においてこのような行動を観察するために行った実験の結果を報告した。ラットに3つの飲み口を呈示し、その中から刺激に応じた飲み口を選択することで報酬を得られるように訓練した。刺激は列構造を有しており、対応する飲み口の直上に呈示されていた。飲み口と刺激との対応関係を十分に学習させたのちに、報酬を得ることができる飲み口を一つに絞り込むことができないような刺激を呈示した(報酬を獲得できる選択肢が不確定な状況)。このとき、ラットが装置内部に設置された赤外線センサーを0.5秒間切り続けると一つの飲み口と対応した刺激が呈示される(報酬を獲得できる選択肢が確定した状況)ようにした。赤外線センサーを切り続ける行動はある種の好奇心を反映していると考えたが、この行動は増加せず、さらに報酬を獲得できる選択肢が確定した状況であっても正選択率は低かった。ラットに何かしらの反応をさせたうえで選択肢  が絞り込まれていくような実験場面を設定する必要がある。

小林正法先生(山形大学人文社会科学部 准教授)
「Aweは時間を拡張するのか?」

“Awe” は日本語で畏敬と訳される情動であり、心的枠組みの更新が必要となるような、偉大さ、壮大さを持つ物事に触れたときに感じる感情である。これまでいくつかの研究で、Aweを喚起させることで時間感覚の拡張や向社会性への影響が検討されてきたが、一貫した結果は得られていない。小林先生は、Aweの喚起の不十分さや課題の問題点を考慮し、Aweの効果を再検討された。Aweの喚起を十分に行うためにヘッドマウントディスプレイを用いて360度VRの動画を提示した。360度VR動画でAweが喚起されることが確認されたが時間拡張の傾向は確認されなかった。VR動画以外の刺激呈示によってAweを喚起させることや、サンプルサイズの見直しの必要性を報告された。

島井哲志先生(関西福祉科学大学心理科学部心理科学科 教授)
「ポジティブ・ボディイメージ研究:現状と今後の展望」

ボディイメージは、食行動と深い関連を持ち、主に摂食障害に関する知見が報告されている。これまでのボディイメージ研究では、ネガティブな側面が注目され、非適応的な特徴を取り除くことを目指して、認知的不協和を用いた介入などが用いられている。島井先生は、ポジティブ心理学の考えに則り、非適応的な特徴の除去だけではなく幸福や人生の充実につながるような介入をすべきであると主張された。島井先生には、まず近年のポジティブ・ボディイメージ研究の動向についてご紹介いただいた。さらに、ポジティブ・ボディイメージを持つ女子学生を対象としたインタビュー研究から、ポジティブ・ボディイメージは幸福感、感謝心などの特性と関連していること、食行動とも強く関連することなどを述べられた。今後の展望として、食の介入研究だけでなく、他の身体障害者へのウェルビーングにアプローチすることの重要性についてご説明いただいた。

最後に片山順一センター長および、CAPS客員研究員の松見淳子先生より、プロジェクトの最後を締めくくるお言葉をいただいた。

 

参加者25名

文責:リサーチアシスタント,博士研究員