第4回CAPS研究会 1/29 川合隆嗣先生(筑波大学医学医療系生命医科学域)・報告

顔写真_川合隆嗣

講演者: 川合隆嗣先生 (筑波大学医学医療系生命医科学域)
日 時: 2016年1月29日(金) 16:00~18:00 (終了時間は目安です)
場 所: 関西学院大学上ケ原キャンパス F号館305号教室

タイトル: 嫌なことを避ける脳のメカニズム

要旨:
私たちはある行動の結果として嫌な経験をすると、次の機会にはその行動を避けることができます。脳はどのようにして、この嫌なことを避ける行動を可能にしているのでしょうか?先行研究から、嫌悪的な出来事が起こったときに脳内の複数の領域が強く活動することがわかっています。ところが、そうした複数の領域が一体どのように協調して、嫌なことを避ける行動を実現しているのかは明らかではありません。私は今回この問題に取り組むために、認知機能が発達したマカク属のサルに行動課題を訓練し、課題中の脳活動を記録しました。その際、嫌なことが起こったときに強く活動することが知られている、外側手綱核と前部帯状皮質と呼ばれる2つの脳領域の活動に着目しました。実験の結果、外側手綱核は嫌なことが起こったことをいち早く知らせるような役割を示し、一方で、前部帯状皮質は現在や過去に起こった嫌な経験を記憶して、将来の行動を適切に変えるような役割を示すことを発見しました。本研究のようなサルを用いた神経生理学実験は心理学とも親和性が高いものです。本講演ではそのような“サル実験”の魅力も、みなさまにお伝えできればと思います。

報告:
我々はある行動をした結果として嫌な経験をすると、その行動を避けるようになる。過去の嫌な経験に基づいて行動を切り替える能力は、適切な行動を形成する上で極めて重要であるが、そのプロセスに関わる神経メカニズムは十分に解明されていない。この問題に対し、川合先生は外側手綱核と前部帯状皮質のニューロンが共に嫌悪的な出来事に対し強く活動する点に着目された。これら二つの脳領域はループ回路を形成していることから、協調して機能していることが考えられるという。本研究会では、この二つの脳領域が嫌悪事象を避ける行動を実現する過程で、どのような役割を分担しどのような役割を共有しているのか、という問題に取り組んだ研究をご紹介いただいた。
 川合先生は嫌悪的な出来事を避ける行動に外側手綱核と前部帯状皮質が果たす役割を調べるため、マカク属のサルに逆転学習課題を訓練した。この課題では、左右に呈示された二つのターゲットのうち一方を選択すると50%の確率で報酬としてリンゴジュースが与えられ、他方のターゲットを選択しても報酬が与えられなかった。そして、報酬が与えられるターゲットの左右位置は予告なく入れ替わった。この課題で報酬が与えられるターゲットが入れ替わったとき、サルは一方のターゲット選択に対し報酬が得られない試行が続くと、次の試行でもう一方のターゲットに選択を切り替えた。この課題中に外側手綱核および前部帯状皮質のニューロン活動を記録した結果、どちらの部位でも無報酬試行で活動するニューロンが多く存在し、特に外側手綱核ニューロンは前部帯状皮質ニューロンよりも早く活動することが認められた。これは、外側手綱核が無報酬という嫌悪的な情報をより素早く検出することを示唆している。一方で、前部帯状皮質ニューロンの無報酬試行での活動は、サルが選択行動を自ら切り替える場合に活動頻度が増加し、さらに無報酬試行を多く経験するほどに活動頻度が増加することが認められた。これは、前部帯状皮質ニューロンが、過去の嫌悪的な経験に基づいて次の選択行動を調整する過程に、より重要な役割を果たすことを示唆している。上記の研究に関連したニューロン活動と行動の関係についての多角的な分析データを数多くご紹介いただき、有意義な研究会となった。また、学生と教員も含め活発な議論がおこなわれた。

IMG_3050

参加者19名
(文責:山岸厚仁)