2015年度戦略プロジェクト報告会 3/4・報告

2015年度戦略プロジェクト報告会

日時:2016年3月4日(金) 15:30~17:30
場所:関西学院大学上ケ原キャンパス F号館102号教室

(1) はじめに

(2) 研究成果報告
・山岸厚仁 (関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター RA)
「ラットの向社会的行動にオキシトシンと飼育環境が及ぼす影響」

・伏田幸平(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター RA)
「異性の身体的魅力が無関連プローブ刺激に対する事象関連脳電位に及ぼす影響」

・大森駿哉(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター RA)
「感情喚起映像が思考-行動レパートリー想起数と生理的反応に与える影響」

・植田瑞穂(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター RA)
「乳幼児期の共感行動の発達的検討」

参加に際して事前連絡は不要です。多くの方のご参加をお待ちしています。

 

報告:

(1) はじめに

最初に片山順一センター長からCAPSおよび戦略プロジェクトに関するこれまでの経緯、現在の共同研究・受託研究等の報告が行われた。
その後、大竹恵子センター副長からCAPSの設備および研究会に関する報告、今後の戦略プロジェクトの方針が説明が行われた。

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(2) 研究成果報告
戦略RAによる成果報告が行われた。概要を以下に記述する。

山岸厚仁(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター RA)
「ラットの向社会的行動にオキシトシンと飼育環境が及ぼす影響」

他者を援助し、悲しむ人を慰め、物を分け与えるといった報酬を期待せずに他者に利益をもたらす自発的な行動は向社会的行動とよばれている。向社会的行動は他者への共感により生起すると考えられているが、その生起メカニズムは十分に解明されていない。そこで本研究では社会的行動に影響を与える神経ペプチドであるオキシトシンが向社会的行動にどのような影響を与えるのか検討した。実験では陸地にいるラットが隣の水が張られたプールにいるラットをプールと陸地を隔てるドアを開けて助け出す援助行動課題を実施した。ペア飼育または単独飼育された個体に対し、この課題を行う前にオキシトシンまたは生理食塩水の腹腔内投与を5日間おこなった。その結果、安定したドア開け行動を示す個体は単独で飼育されオキシトシンを投与した条件においてもっとも多かった。以上の結果から、オキシトシン投与による援助行動の促進効果が飼育環境の違いに左右される可能性が示された。質疑ではオキシトシンの投与法や飼育期間といった方法論等について活発な議論が行われた。

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伏田幸平(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター RA)
「異性の身体的魅力が無関連プローブ刺激に対する事象関連脳電位に及ぼす影響」

主観報告による異性の身体的魅力の評価は時として当てにならないことが報告されてきている。そこで無関連プローブ刺激に対する事象関連脳電位のP2が異性の身体的魅力を測る指標となるかを検討した。無関連プローブ法とは主課題とは別に物理刺激(これをプローブ刺激と呼ぶ)を呈示し、それに対する反応を測定する方法である。主課題に多くの注意が必要となるほどプローブ刺激に対するP2の振幅が減衰するため、プローブ刺激に対するP2は注意資源の配分量を反映すると考えられている。本研究では男女それぞれ12名の参加者に高/低魅力の異性動画を視聴させた。その際、動画刺激と同時にプローブ刺激として電気刺激を参加者の一方の腕に高頻度(80%)、他方の腕に低頻度(20%)で呈示した。その結果、男女共に高/低頻度刺激に対するP2は低魅力動画視聴時よりも高魅力動画視聴時で有意に小さいことが示された。これは高魅力動画に多くの注意資源が割かれ,プローブ刺激に対する注意資源が減少した結果と考察された。よって無関連プローブ刺激に対するP2は身体的魅力の差を検討する指標として有用である可能性が示唆された。質疑では覚醒度など魅力以外の要因がP2に影響を及ぼしている可能性などについて議論が行われた。

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大森駿哉(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター RA)
「感情喚起映像が思考-行動レパートリー想起数と生理的反応に与える影響」

本研究はポジティブ感情の機能を説明する「拡張ー形成理論」に着目して行われた。ポジティブ感情の経験によって思考の”拡張”が生じたことを確認するために、自己と他者(親友)との向社会的行動場面を想起させる「レパートリー想起課題」を用いて、書き出したレパートリー数を指標とした。想起場面は「自己が落ち込んでおり、他者(親友)から”して欲しい”こと」と、「他者(親友)が落ち込んでおり、”してあげたい”こと」とし、それぞれ1回ずつ実施した。各課題前にポジティブ感情喚起映像と感情が喚起されない映像のどちらかを視聴させ、心拍数を測定した。その結果、想起レパートリー数はポジティブ映像視聴後の”してあげたい”レパートリー数が他の組み合わせに比べて有意に増加した。心拍数はニュートラル映像よりもポジティブ映像を視聴している時に有意に減少し、ポジティブ映像を見た条件では気分評価で増加した心拍数がレパートリー想起課題時に減少する傾向が見られた。この実験の結果を踏まえ、生理的反応をより明確に捉えるために脳波・心拍数・皮膚コンダクタンス水準を指標に加えて同様の手順で実験を行った。その結果レパートリー数では有意差は見られなかったが、ポジティブ映像視聴後に”してあげたい”レパートリー数が増加する傾向が示された。心拍数と皮膚コンダクタンス水準はポジティブ映像視聴中に比べてレパートリー想起課題中に有意に増加し、ポジティブ映像による感情喚起が課題中の反応増加に寄与している可能性が考えられた。以上の内容から、拡張-形成理論による思考の拡張が観察され、ポジティブ感情が生理的反応に与える影響について今後の研究に発展する可能性を示唆する結果を報告した。会場では思考の拡張が生じる場面、用いた指標の有効性、分析方法、感情喚起における刺激の特徴などについて活発な議論が行われた。

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植田瑞穂(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター RA)
「乳幼児期の共感行動の発達的検討」

これまでの共感研究は他者のネガティブ情動に対する共感に焦点が当てられてきたが、近年では「ポジティブ共感」の研究も行われ始めている。本研究では未解明なことが多い1~3歳児のポジティブ共感について、その発達的特徴を探索的に検討することや測定法を確立することを目的とした。実験者によるポジティブ情動の演技を含んだ90秒間の共感テストを実施し、既存の評定システムを用いて子どもの行動を評定した。共感を喚起するための演技の内容は「何も入っていない透明なケースを開けることができて喜ぶ」と「電話で誕生日を祝われて喜ぶ」のいずれかとした。その結果、1、2歳児にも状況が理解しやすい「ケース」の演技に対する認知的共感得点は一貫して低い一方で、「電話」の演技に対する同得点は3歳児のみ高くなったことから、状況の違いによってその発達的傾向が異なることが示された。一方、情動的共感についてはこれまでのネガティブ共感に関する研究と同様に、生起率が低く発達的傾向も見いだされなかった。また実験者志向行動の潜時や向社会的行動の見られた事例の記述的報告から、ポジティブ共感の測定法としては「ケース」の演技の方がより自然な行動を引き出せると考えられた。その他ポジティブ情動に対する「向社会性」の定義などについて考察が行われた。質疑では、演技の質の統制に関する問題や、その他の測定法の可能性について議論が行われた。

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参加者35名(うち教員10名)
文責:山岸厚仁・伏田幸平・大森駿哉・植田瑞穂
編集責任:伏田幸平