第5回CAPS研究会 3/4 真田原行先生(東京大学)・報告

20150916-K3TS6810

講演者: 真田原行先生 (東京大学)
日 時: 2016年3月4日(金) 13:00~15:00 (終了時間は目安です)
場 所: 関西学院大学上ケ原キャンパス F号館102号教室

タイトル:動機づけによるワーキングメモリ処理向上過程の解明

要旨:
我々人間が目的に向かって行動する際、その前提として「その目的を達成したい」という動機づけが不可欠です。つまり動機づけは、人間の認知や行動を駆動するエンジンのような役割を担っていると言えます。実際に、動機づけは認知機能を向上することが知られており、これまでの研究ではそのメカニズムに関わる脳領域の特定が進められてきました。しかしながら、時間的な認知処理過程の中でいつ動機づけがその機能を向上するのかはあまり検討がなされていません。そこで我々は、時間分解能に優れる事象関連電位(ERP)を用い、代表的な認知機能であるワーキングメモリを対象として、動機づけがその機能を向上する時間的プロセスを解明しました。本発表ではその内容についてご報告いたします。
動機づけは、対象に向かうよう認知や行動を駆動する点において、ポジティブ情動と非常に関係が深い心理機能です。本発表では、そうした関係性についても皆さまと議論できれば幸いです。

報告:
我々は日常において、ワーキングメモリを通じて必要な情報を一時的に保持したり処理したりすることができる。ワーキングメモリを含む実行機能の駆動には動機づけが深くかかわっているとされるが、これまでの研究は動機づけの影響に関わる脳領域・神経回路の解明に注目しており、記銘・保持・検索といったワーキングメモリ処理過程のどの段階で影響するのかは明らかでなかった。一方、視覚性ワーキングメモリ研究では、その時間的処理過程の解明が進展しており、記銘・保持過程には選択的注意による情報の取捨が大きくかかわっていることが示されているほか、検索過程には低次で自動的な初期過程と、より高次な処理が行われる後期過程が存在するということが明らかになっている。真田先生はこの点に着目され、変化検出課題の各試行に先駆けて異なる金銭的報酬を呈示し、課題時の事象関連電位を測定することで、ワーキングメモリの処理過程における動機づけの影響を検討された。その結果、課題画面の知覚処理にかかわるP1・N1や、検索の初期過程にかかわるとされるN2pcは報酬の高さの影響を受けない一方、記銘・保持過程にかかわるとされるCDAや、検索時P3の振幅が高報酬条件で有意に増大した。この結果は、動機づけが知覚段階より後の高次な段階に影響を及ぼすことを示すものであった。しかし報酬呈示の方法が本研究とは異なる先行研究からは、動機づけが認知処理のかなり初期段階から影響する場合もあることが示唆されており、報酬と課題の関係性によって動機づけの影響の機序が異なることが考えられた。
 また、本研究会では真田先生が現在取り組まれている視覚性ワーキングメモリ容量の独立性についての研究もご紹介いただいた。これまで、いくつかの情報モダリティ間でワーキングメモリ容量が独立することが示されてきたが、視覚情報内の異なる特徴に関する容量については二つの対立する理論が存在していた。真田先生はそのうち、傾きと色の二重課題を用いて視覚情報が一つのワーキングメモリ容量を共有することを示した研究について追試し、傾きと色の両情報を同時に覚える方が、同じ量の単一の視覚的特徴を覚えるよりも成績が良いという、先の研究とは異なる結果を得られた。さらに、先行研究で存在した交絡要因をなくすために手続きを調整することでより大きな効果を確認し、視覚情報内でも容量が独立することが明らかとなった。このことから、感覚や情報処理ネットワークの分離がワーキングメモリ容量の独立性を決定する可能性を述べられた。
 そのほか、実験手続きや動機づけの概念的な位置づけについてなど、教員や学生を含めて活発な意見交換が行われ、非常に有益な研究会となった。

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参加者31名
(文責:植田瑞穂)