第6回CAPS研究会 3/17 小林正法先生(名古屋大学・学振PD)・報告

IMG_0265_resize

講演者: 小林正法先生 (名古屋大学・学振PD)
日 時: 2016年3月17日(木) 14:00~15:30 (終了時間は目安です)
場 所: 関西学院大学上ケ原キャンパス F号館102号教室

タイトル:感情記憶に対する忘却と忘却による感情情報の変容

要旨:
「約束を忘れた」,「勉強したことを試験で思い出せない」など,日常生活では,「忘れる」ことは悪いことであり,「覚えている」ことが良いことだと捉えられています。しかしながら,「不要な記憶の忘却は,認知システムを新しい情報の更新のために解放する(Bjork, 1989)」という主張が示すように,「忘れる」ことのポジティブな面が近年では注目されています。このような背景を踏まえ,本発表では,感情記憶と忘却の関連について取り上げていきたいと思います。はじめに,うつ病や心的外傷後ストレス障害などの精神疾患において特に問題となるネガティブ記憶を忘却することが可能かをご紹介します。加えて,忘却した記憶の感情情報がどのように変容するかについてもお話させていただきます。これらの発表を通して,感情と記憶の相互作用について,皆様と議論させていただければ幸いです。

報告:
 我々の日常生活では「約束を忘れた」,「勉強したことを試験で思い出せない」など,「忘れる」ことは悪いことであり,「覚えている」ことが良いことだと捉えられている。これは「覚えること」に目標行動が含まれているからである。一方,忘れることが目標(良い面)となる場合もある(たとえば,うつ病やPTSDなど)。「忘れる≒思い出しにくくなる」ことであり,ネガティブな記憶を抑制(思い出しにくく)することができれば気分の改善や精神的苦痛の軽減につながる。そこで,(1)感情に関わる記憶が抑制できるのか,(2)忘れた記憶の情報は変容するのか,という2つの議題について研究成果を含めてご紹介いただいた。
まず,感情記憶の抑制について,Think/No-Thinkパラダイムを用いた実験と検索誘導性忘却を用いた実験についてご紹介いただいた。Think/No-Thinkパラダイムを用いた先行研究が紹介され,そこでは,ターゲットとなるネガティブ画像(ネガティブ刺激)と手がかり画像(ニュートラル刺激)を対呈示し,呈示時の枠の色が緑の場合は「手がかり刺激と対呈示されたターゲットを思い出してください(Think)」という試行,枠の色が赤の場合は「手がかり刺激と対呈示されたターゲットを思い出さないようにしてください(No-Think)」という試行で実施した。その結果,No-Thinkを行ったターゲットの正答率が有意に減少することが示された。さらに,ネガティブ画像をポジティブ画像に変更して同様の手続きを用いた実験を行いNo-Think条件で正答率が減少する結果が得られた。これらの知見から,認知的コントロールによって様々な記憶の抑制が可能であることを報告した。また,検索誘導性忘却を用いた実験では,検索練習課題を用いた。手続きとして,単語の学習を行った後に,検索練習段階を経て記憶テストを行った。その際,検索練習の有無によって,刺激がそれぞれ「Rp+(検索練習した項目)」,「Rp−(検索練習していないがRp+と関連する項目)」,「Nrp(全く関連しない項目)」に分けられた。実験の結果,ニュートラル単語を刺激とした場合,記憶成績は低い順にRp−,Nrp,Rp+ となった。このことから,検索練習対象の項目(Rp+)を選択的に思い出すことで関連する特性を持つ項目(Rp−)が抑制されたと考えられた。しかし,ネガティブ単語を刺激とした場合は,記憶成績が低い順にNrp, Rp−, Rp+ となり検索誘導性忘却が生じなかった。この結果はネガティブ語同士の相互関連性の高さが検索誘導性忘却を阻害したためだと考察された。一方で,意味記憶を検索する場合にはネガティブ語の検索誘導性忘却が生じることも示された。このように,我々が望まない記憶を抑制する機能を持つことが紹介された。
 また,忘れた記憶や情報の変容に関連して,自然忘却した単語や注意・反応抑制の対象となった顔に対する価値が低減することが報告されている。例えば,自然忘却と評価においては,忘れた単語の方が覚えている単語よりも,最初似感じた価値を後により低く思い出すとされている(忘却バイアス)。また,人の顔は社会的相互作用において重要であり,魅力的な顔は覚えられやすいことが報告されているが,忘却によって顔の感情情報(魅力)がどのように変化するのかは不明であった。そこで,この点を検討した。実験では,事前に各顔の魅力を評定させ学習させた後,顔の記憶テストを行わせた。さらに,テスト後に,学習した顔の評定値を再認させた。その結果,評定値(魅力)が高いほど再認成績が良かったことか。つまり顔に関しても忘れると価値が下がることが示された。忘却バイアスのメカニズムとして「メタ認知的信念」,「潜在的推論」,「流暢性」が影響しており,メタ認知的信念や潜在的推論を実験的に操作しても忘却バイアスが生じた実験結果から,流暢性の低下が忘却バイアスを生じさせた可能性を示唆した。
 感情記憶の抑制とメカニズムについて多角的な分析データを数多くご紹介いただき,有意義な研究会となった。抑制の難しさや忘却による価値低減,手続き上の疑問や考察を含めて教員や学生との活発な議論が行われた。

IMG_3237

参加者28名
(文責:大森駿哉)