第7回CAPS研究会 3/17 高橋良幸先生(専修大学PD)・報告

CAPS

講演者: 高橋良幸先生 (専修大学PD)
日 時: 2016年3月17日(木) 15:40~17:10 (終了時間は目安です)
場 所: 関西学院大学上ケ原キャンパス F号館102号教室

タイトル:松果体ホルモン・メラトニンがシナプス可塑性および記憶成績に及ぼす影響について

要旨:
朝起きて、昼の間に活動して、夜には寝る。われわれは1日という周期単位のもとで生活をおくっています。昼であるとか夜であるといった外的環境の日内変化によって生体内部の環境は大きく変わります。たとえば生体内物質であるホルモンの中には日内の時間帯によって分泌される量が大きく変わるものがあります。生物に宿る「こころの機能」にこのような生体内部の変化が強く反映されることは想像に難くありません。学習や記憶も例外ではなく、日内の時間帯による影響を受けることが報告されています。学習や記憶に影響を及ぼしうる生体内物質の候補として松果体ホルモンであるメラトニンが挙げられます。今回は、メラトニンがどのように記憶や学習に影響を及ぼしているのか、神経生理学的な側面と心理学的な側面から得られた知見をそれぞれ報告いたします。特に、神経生理学的な知見と行動の対応関係について皆様と議論させていただければ幸いです。

報告:
生体の内部環境が約24時間の周期で変動することは概日リズムと呼ばれ,我々の学習や記憶にも影響を与えることが知られている.しかし,概日リズムが学習や記憶に影響を及ぼすメカニズムについては十分に明らかにされていない.この問題について高橋先生は,分泌量が明期に減少し暗期に増加するといったように,概日リズムをもったホルモンとして知られるメラトニンに着目され,学習や記憶の神経基盤である海馬にメラトニンがどのような効果を及ぼすのかについて検討された.本研究会では,(1)海馬依存の学習課題にメラトニンが与える影響,(2)海馬のシナプス可塑性にメラトニンが与える影響についてご紹介頂いた.
まず,メラトニンが海馬に与える影響を調べるため,ラットに海馬依存の学習課題として知られる新奇位置再認課題をおこなった.この課題では,獲得試行において2つの物体がおかれた実験箱内をラットに探索させ,テスト試行において2つの物体のうち一方を異なる新しい位置においた状況で再び探索させる.ラットが獲得試行における物体の空間情報を正しく記憶している場合,テスト試行で新奇位置に置かれた物体をより長く探索する.この課題を明期または暗期で実施したところ,暗期における記憶成績が明期の場合より良くなることが示された.さらに,獲得試行に先立ちメラトニンを腹腔内に投与したところ,暗期においてメラトニンを投与した群の記憶成績が,メラトニンを投与していない群より低下することが示された.これらの結果から,新奇位置再認課題の成績は暗期に向上し,さらにその遂行に最適なメラトニン濃度が存在することが示唆された.
また,海馬のシナプス可塑性にメラトニンが与える影響を調べるため,メラトニン存在下におけるラットの海馬CA1領域の長期増強について検討した.その結果,メラトニン存在下において海馬CA1領域の長期増強が減弱することが示された.このメラトニンによる海馬の長期増強減弱に一酸化窒素信号経路との関係が示唆されるため,一酸化窒素合成酵素阻害薬L-NAMEが海馬の長期増強に与える影響について検討した.その結果,L-NAME群およびL-NAME+メラトニン群は,メラトニン群と同程度に長期増強が減弱した.また,一酸化窒素供与体DEA/NOをさらに追加すると,メラトニンおよびL-NAMEによる長期増強の減弱効果が消失した.以上の結果から,メラトニンにより一酸化窒素信号経路が抑制されることで,海馬CA1領域の長期増強が減弱する可能性が示唆された.また,新奇位置再認課題をおこなうラットの海馬CA1領域において,長期抑圧が生じることが知られている.しかし,海馬の長期抑圧にメラトニンが及ぼす影響については明らかにされていない.そこで,複数の方法により誘導された海馬CA1領域の長期抑圧に,メラトニンが及ぼす影響について検討した.その結果,長期抑圧誘導が徐々にシナプス可塑性に影響を及ぼしていく機序にメラトニンが作用することが示唆された.
高橋先生は今後の展望として,長期増強の誘導・発現・維持といった神経機序と本研究の結果との対応について検討していく必要性を述べられた.質疑ではメラトニンが神経機序に及ぼす影響と生体の行動との関係や,実験手続き,神経活動の解析法などの様々な点について学生や教員と活発な議論が交わされ,有意義な研究会となった.

IMG_3241

参加者26名
(文責:山岸厚仁)