2016年度戦略プロジェクト報告会 3/3・報告

2016年度戦略プロジェクト報告会

日程:2017年3月3日(金) 13:00〜15:00
場所:関西学院大学上ケ原キャンパス F号館102号教室

(1) はじめに

(2) 研究成果報告

植田瑞穂(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「幼児期における他者のポジティブ情動に対する共感発達過程の検討」

大森駿哉(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「ポジティブ感情喚起が思考ー行動レパートリー想起数と生理的反応に与える影響」

真田原行(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「感情を脳波で測れるか?-前頭部アルファパワー左右差とその時間的変化」

小林正法(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「懐かしさ感情の特徴を探る」

高橋良幸(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「視覚刺激の情報量操作がラットの探索行動に及ぼす影響」

参加に際して事前連絡は不要です。多くの方のご参加をお待ちしています。

報告:
(1) はじめに
最初に片山順一センター長からCAPSおよび戦略プロジェクトに関するこれまでの経緯、現在の共同研究・受託研究等の報告が行われた。 その後、大竹恵子センター副長から今年度行われた研究会や講演会に関する報告、今後の戦略プロジェクトの方針が説明が行われた。


(2) 研究成果報告
戦略RA,PDによる成果報告が行われた。概要を以下に記述する。

植田瑞穂(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「幼児期における他者のポジティブ情動に対する共感発達過程の検討」

本研究では、ポジティブな感情に対する共感について,人生早期におけるその発達過程を検討することを目的とした。研究1では、1、2歳児を対象に、母親や実験者が複数のポジティブな状況に関する演技を行い、子どもの反応を測定した結果、「達成の演技」のみに対する情動的共感が1歳から2歳にかけて増大することが明らかになった。研究2では、他者の達成状況への共感に対する子ども自身の達成経験や被称賛経験の効果を検討した。その結果、子ども自身の達成時に実験者から称賛が与えられた群は、称賛を与えられない群と比べて、母親の達成時における情動的共感得点が上昇するというデータの傾向が示された。また、母親と子どもの自由遊び時における子どもの達成回数や母親の称賛回数のうち、達成回数のみが実験者の達成時における情動的共感得点を予測する傾向が示された。これらの結果から、日常生活における子ども自身の達成時において、内発的なポジティブ感情や周囲からの称賛による外発的なポジティブ感情を経験することによって、年齢とともに他者の達成時にも共感できるようになると考えた。質疑では、母親の称賛と子どもの達成の相互作用メカニズムが存在する可能性について議論が行われた。

 

大森駿哉(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター リサーチアシスタント)
「ポジティブ感情喚起が思考ー行動レパートリー想起数と生理的反応に与える影響」

本研究はポジティブ感情の機能を説明する「拡張ー形成理論」に着目して実施したものである。ポジティブ感情の経験によって思考の一時的な”拡張”が生じたことを確認するために,自己と他者(親友)との向社会的行動場面を想起させる「レパートリー想起課題」を用いて,書き出したレパートリー数を行動指標とした。想起場面は「自己が落ち込んでおり,他者(親友)から”して欲しい”こと」と,「他者(親友)が落ち込んでおり,”してあげたい”こと」であり,それぞれ1回ずつ実施した。各課題の実施前にポジティブ感情喚起映像(ポジティブ映像条件)と感情が喚起されない映像(ニュートラル映像条件)のどちらかを視聴させ,生理指標として脳波・心拍数を測定した。実験の結果,想起レパートリー数はポジティブ映像視聴後の”してあげたい”レパートリー数が他の組み合わせに比べて多くなる傾向が見受けられた。映像視聴時の生理反応ではポジティブ感情喚起映像の視聴中において脳波の前頭の左右差は接近を示す反応が見られ,心拍数は減少を示した。レパートリー想起課題中は映像条件間に有意な差は見られなかったが,一部の期間において脳波の接近を反映する反応と心拍数の減少が見受けられた。以上の結果から,ポジティブ映像の視聴によってポジティブ感情の喚起が確認され,ポジティブ感情は思考の拡張を生じさせ,それは他者に対してより強く生じさせることを示唆した。また,本課題において,より多くのことを書き出す状態は接近が生じるような落ち着いたポジティブ感情状態であると考えられたことから,思考の拡張が生じるメカニズム(感情状態)を一部明らかにできたことを報告した。会場では,主に映像視聴後に得られた主観評価と生理指標の関係性について質問が行われ,今後の課題と方向性について議論が行われた。

 

真田原行(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「感情を脳波で測れるか?-前頭部アルファパワー左右差とその時間的変化」

喜びや悲しみ、そして怒りなど、我々人間は日常的に感情を経験している。しかしながら我々が感じる感情はあくまで主観的体験であり、「どのような感情が喚起されているのか、またその程度はどのくらいか」を客観的に把握することは極めて難しい。今年度は、感情状態とその時間的変化を潜在的に計測できる指標の確立を目指し研究を行ってきた。
各感情状態(喜び・悲しみ・怒りなど)を明確に区別できる神経生理指標は未だ発見されていないが、少なくともポジティブ・ネガティブの切り分けに限れば、前頭部アルファ波のパターンによってそれが可能であると繰り返し報告されてきた(Davidson et al., 1990)。ポジティブな感情が喚起されている時には左に比べて右側の前頭部でアルファ波パワーが大きくなり、ネガティブな感情が喚起されている場合には、右に比べて左側前頭部でそのパワーが大きくなる。我々はまずこの現象を追試するため、ポジティブな内容の動画(赤ちゃんが笑っているシーンなど)とネガティブな内容の動画(ムカデがゴキブリを捕食しているシーンなど)を被験者に見せ、その間の脳波を計測した。結果、ポジティブ動画視聴時には右前頭部アルファ波パワーが左に比べて大きく、ネガティブ動画視聴時には逆のパターンとなり、先行研究の報告と同じ現象を確認できた。次に我々は、アルファパワー左右差の時間的変化を追うため、各動画視聴時の脳波データを10秒ごとに区切って周波数解析を行った。結果、動画によっては動画開始後徐々に左右差が生じているようなパターンが確認できた。今回の研究から、内的な感情状態を脳波パターンによって計測でき、またその時間的変化も追える可能性が示唆された。

 

小林正法(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「懐かしさ感情の特徴を探る」

懐かしさ感情はノスタルジア(Nostalgia)と呼ばれる。ノスタルジアは過去に対する郷愁として定義され,その特徴の1つに混合感情(Mixed Emotion)がある。Bitter Sweetと表現されるように,ノスタルジアは大部分がポジティブ感情でありながらも,その一部にネガティブ感情が含まれるとされる。本研究では,ノスタルジア気分の喚起程度に個人差が見られるか,ノスタルジア気分時の生理的特徴はどのようなものかを調べた。研究の結果,ノスタルジア気分の喚起の程度には,うつ病傾向及びに主観的幸福感のそれぞれが正に関連することが示された。この結果は,ノスタルジア気分が主観的幸福感というポジティブな感情特性と関連することを示唆する。加えて,生理的特徴としては,心拍数が増加する一方で皮膚電位レベルには変化が見られないという結果が見られた。これは,「喜び」感情と類似した生理的特徴をノスタルジア気分が持つことを示している。これら一連の研究を基に,よりノスタルジアの特徴を詳細に検討することが今後期待される。

 

高橋良幸(関西学院大学大学院文学研究科 応用心理科学研究センター 博士研究員)
「視覚刺激の情報量操作がラットの探索行動に及ぼす影響」

ラットやマウスなどのげっ歯類を用いた動物実験において,探索行動は記憶や不安の行動指標として利用されている。しかしながら、なぜ動物が探索行動をするのか、その動因は十分に解明されていない。探索行動は外的環境や対象物体から情報を取得するための行動であると考えられるため、外的環境の情報量を操作することで探索行動がどのように変化するのか検討した。装置内に呈示されたランダムドットパターンに含まれる情報量が増大するほど、ラットの探索行動量が増大することが示された。さらに、この時の探索行動はランダムドットパターンに限定された探索行動ではなく、装置内部全体への探索行動であることが示唆された。この行動変容がどのような神経基盤によって引き起こされているのかについて、今後研究を進めていく。フロアからは情報量をどのように操作すべきか、方法に関しての質問・コメントが寄せられ、活発に議論された。

参加者26名
文責:リサーチアシスタント,博士研究員